君の街は大丈夫?−液状化現象とは

埼玉大学工学部建設工学科

1998. 6.13(一日体験入学の資料)

はじめに

皆さんは、地震のニュースで「液状化」という言葉を最近しばしば耳にすることがあるでしょう。液状化現象とその被害が最近ますますクローズアップされています。当学科ではこの液状化現象について研究しています。

海岸線の近くに世界の大都市が数多くありそこに大きな川が流れています。すなわち緩い堆積地盤の上に多くの人が住んでいるわけです。日本でも人口が集中する大都市のほとんどが沖積平野すなわち河川による堆積地盤の上に広がっています。このような沖積平野、なかでも三角州は砂を主体とする地盤になっており地下水位が高く、もしも地震が生じたら大変に液状化しやすい地質条件といえます。

日本は世界でも指折りの地震地帯にあり、地震の脅威にさらされています。そのためしばしば地震被害を経験することになります。日本の地震被害は地震の揺れによる直接的被害だけでなく、しばしばビルや構造物の足元の地盤が液状化することで被害が大きくなるという特色があります。

兵庫県南部地震での被害状況

写真1 西宮港大橋周辺地盤の液状化

写真2 液状化による地盤沈下とマンホールの浮き上がり

1995年1月17日に生じた兵庫県南部地震による阪神大震災でも多くの箇所で液状化現象とその被害が生じました。写真1は、地震発生の翌日に撮影した西宮港大橋周辺の地盤の様子です。後ろの西宮港大橋は落橋しています。地表には地下から吹き出した水が残っており橋脚を映していたり、光っているのが見えます。手前には地割れのような筋が見え細かい土が水と一緒に外側に流れたような跡がみえます。この土と水は地震動により地中から噴き出したものなのです。細かい土は手に取ってみると砂であることが判ります。地震によっておこるこのような現象は「噴砂」とか「噴水」とよばれて昔から知られてきた現象ですが、現代では「液状化現象」と読んでいます。

液状化現象が生じると、地盤が沈下したり、地中のマンホールが地表に浮き上がったりします。写真2は西宮港大橋近くの橋脚周辺地盤が液状化してマンホールがアスファルト舗装を突き破って浮上した様子です。橋脚下部のコンクリートに舗装が接触していた跡がみえますから地盤が沈下して舗装を破壊したことが判ります。また舗装表面に吹き出した砂が溜まっているのがみえます。

液状化現象のメカニズム

図1 液状化前の地盤

図2 液状化中の地盤

液状化は通常,小石や礫等の粒子が 大きい地盤や粒子の細かい粘土地盤では生じず、粒子の大きさが中 間の砂地盤で生じます。

砂地盤では、地震の揺れがないときには図1に示すように砂粒子同士が引っ掛かり噛み合いながら「骨格」をつくり自分の重さや上に載る構造物の荷重を支えています。砂地盤にも密な地盤と緩い地盤がありますが、緩い地盤では地震により水平方向の揺れを受けると、骨格がずれて破壊されてしまいます。骨格が破壊されるので緩い地盤は崩れ、粒子は一度ばらばらになり、その後より密な地盤になります。地下水面以下の緩い砂層では、隙間が地下水で満たされているため粒子の動きは緩慢になり粒子がばらばらになった状態が長く続くことになります。水が粒子の隙間を移動する際に抵抗が生じ時間がかかるのです。ちょうど水鉄砲に空気を入れると引き金を引くのは楽なのに、水を入れると抵抗があるのと同じ理由です。地盤の構成粒子が水中でばらばらになって浮かんでいる状態はすなわち地盤が泥水になった状態にあたります。この泥水が上からの圧力を支えようとしますが、もしも地盤に亀裂でもあると水鉄砲のように吹き出します。これが噴砂とか噴水といわれる現象です。砂層が泥水になるので、重いものを支えきれなくなり沈下したり、軽いマンホールが浮き上がったり、泥水が抜けてしまうのでその分地盤沈下を生じたりします。また泥水化した地盤そのものが数メートル以上斜面にそって移動する側方流動が生じたりします。このように液状化は緩い砂層で地下水位が高い箇所で生じます。

液状化発生の条件

都市と生活への影響

液状化自体により死傷など人命への直接被害が生じることはあまりありませんが,建物や構造物の基礎である地盤が破壊されるので影響はとても大きいものがあります。典型的被害としては,

などを上げることができます。このように都市機能や生活に与える影響は限りなく大きいといえます.

対策

液状化が生じそうな場所に構造物をつくる際には地盤が液状化しにくくなるようにまたは被害を小さくするために対策をとることができます.たとえば

これらの対策には非常にお金がかかり、すべての建物に万全の対策をとることは困難です。

液状化の研究方法

さまざまな方面からの研究が進められています。

 

実験室での液状化現象の再現

液状化に対抗するためには液状化現象を再現し液状化を知ることが必要になります.

1) 小規模な液状化試験装置
ひとかたまりの土に液状化現象を生じさせる.小規模ですが厳密な実験が可能で.どのような土に,どのような条件で,どのような力が加わると液状化するのかを詳しく調べることができます.

2) 大規模な液状化試験装置
地盤の模型を作り振動台で揺らし液状化を生じさせるものです.構造物の実物大もしくは縮小モデルを載せ液状化に耐える構造物の設計(液状化対策工)や、地盤と構造物がお互いにどのように影響し合うかなどを研究するのに用いられます.

一日体験入学の実験内容

当日には,自分たちの手で砂地盤を作成し,振動を与えることで液状化現象を再現してみましょう。

(文章:岩下和義 助教授)


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